田中 エミ
Emi Tanaka
=第4回アシスタントコンダクター=
1980年生まれ。福島県会津若松市出身。幼少より教会で讃美歌やオルガン音楽に親しむ。8歳から13歳までアメリカ合衆国オレゴン州で過ごし、そこで初期の音楽教育を受けた。国立音楽大学音楽教育学科を卒業。大学では松下耕氏ゼミにて合唱指揮・指導法を学び、また、在学中から栗山文昭氏のもと、栗友会の活動にも参加。現在まで、女声合唱団青い鳥の団内指揮者、合唱団響の団員として、数多くの演奏会、レコーディング、海外公演などの活動に参加している。TOKYO
CANTAT
2012「第3回若い指揮者のための合唱指揮コンクール」第1位を受賞。同時にノルウェー大使館奨学金を得て、2013年にノルウェーとオーストリアへ短期留学。現在、多数の合唱団やプロジェクトにて指揮者、アンサンブル・トレーナーを務めている。また、子どもたちの国際合唱交流オンラインプロジェクトを企画・運営している。21世紀の合唱を考える会
合唱人集団「音楽樹」会員。現在、武蔵野音楽大学別科器楽コース・オルガン専攻に在籍中(2021年度)。
ホームページ https://emi-denchan.com/
第4回JCAユースクワイア 2015年3月10日(火)〜14日(土)山中湖畔荘
清渓(山梨県)/浜離宮朝日ホール(東京都)
★Conductor María Guinand(マリア・ギナンド/ベネズエラ)
★Assistant Conductor 田中エミ
今回私はアシスタント・コンダクターとして、指揮者と合唱団との橋渡しをする役目を務めさせていただきました。山中湖畔の凛と澄み切った空気の中で 4 泊 5日、毎朝 8 時半から夜は 9 時半までというハードなリハーサルスケジュールでしたが、最終的にとても充実したセッションとなりました。 お迎えしたのは、ベネズエラご出身のマリア・ギナンド先生。マリア先生は合唱を通してベネズエラの貧しい地区の子どもたちへの教育プロジェクトに長年意欲的に取り組まれてこられました。〈武器ではなく歌声を!〉というスローガンで非暴力を訴え続けるその姿勢は、マリア先生の音楽活動の根幹となっています。 今回取り上げられたのは神、そして自然への祈りを捧げる宗教作品、そしてラテンアメリカの民謡の編曲作品です。曲の背景についてお話しくださる中で、このプログラムに込められたマリア先生のメッセージが、メンバーの中に徐々に染み込んでいくのが分かりました。 レパートリーをうたい深めていく中で 2 つの大きなハードルに直面しました。一つはルネサンス作品の音楽作り。固く四角いものの角を削って、プロポーションを象かたどるような作業を何度繰り返したでしょうか。もう一つは、圧倒的なリズム感の壁、つまりサンバやサルサのリズムの微妙な違いを感じ分けていくことです。マリア先生が要求するリズム感と私たち日本人が持って生まれたであろうそれとの違いを痛感し、最後まで苦戦を強いられましたが、マリア先生が実際に何度もステップを踏み踊って見せてくだり、徐々に近づくことができました。 浜離宮ホールで迎えたコンサート。メンバーの心臓の鼓動が聞こえるような緊張感の中、客席後方より入場しながらの凛々しい歌声とともに開演。コンサート後半はラテンのリズムの熱気を帯び、歌い手たちの生命の躍動に満ち溢れる清々しいステージになりました。 「ベネズエラで、そして世界各地で暴力や戦争によって命を落とす若者が少しでも減るように祈りを込めて贈ります」。マリア先生がそう言葉を残されたのち、最後に演奏したアンコールピースは『花は咲く』。実は、当日までほとんど練習をしていない曲でした。しかし不思議なことに曲に命が吹き込まれ、温かく力強く生まれ変わった演奏を聴き、ふと思ったのです。「ここにメンバーたちがこの 5日で経験したことのすべてが詰まっている」と。 レッスンではメンバーにギリギリのところまで負荷をかけ、あとは自分たちで解決させるため時間的猶予を与え、歌い手どうしのコミュニケーションに委ねたマリア先生。ご自身にも難曲を暗譜されるなど同様のことを課し、メンバーと共に乗り越える姿勢を崩されませんでした。指揮者とメンバーが一体となれるような配慮、そして情熱が短期間でこの合唱団の絆を固くするきっかけになったのではないでしょうか。 「音楽で世界を変えられるのか」という問いに、「まず隣で歌う人を理解しようとする姿勢からしか始まらないのですよ」と、私たちに教えてくださった気がします *会報ハーモニーNo.173(2015年7月号)より抜粋 |
私はこの企画で2015年にアシスタント・コンダクターをしたとき、参加者の皆さんが短期間でマリア・ギナンドさんの音楽を吸収して、コンサートで高い集中力と若いエネルギーいっぱいの演奏をされるのを感動をもって聴きました。JCAユースクワイアでの体験は、後になってからジワジワと生きてくるのではないかと思います。今年のチームも楽しみです!