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World Youth Choir 2002 in USA
世界青少年合唱団2002
2002年7月19日〜8月11日


シカゴの風の印象

剱宝 功

 この夏は今まで生きてきた中で最高に濃い夏でした。様々な出来事を鮮明に思い出せる今に想い出として語るにはまだ早すぎるかもしれませんが、それでも振り返ってみるとアメリカで過ごした3週間はまるで夢の中であったかのような印象を受けます。そんな夢と思わせるほど、密度の濃い時間が流れていました。
 海外旅行はまだまだ初心者の私にとって、飛行機を降りた第一歩目から、自分の頭が許容し切れないくらいの数々の真新しい出来事が飛び込んできました。1日早くシカゴ入りした私は、その活気に溢れる街並みの中で何もかもが今までと違う状況に密かに喜びを感じ始めていました。そしてこれから始まるであろう出来事にさらなる喜びを求めつつ…。
次の日が想像もつかない、なんて思うことを久しく忘れていたのかもしれません。朝起きればペルー人のルームメイトがいてたわいもない話に花を咲かせ、楽譜片手に扉を開ければいつもと同じ高さに太陽があって、爽やかな風に吹かれながら並木道を歩いて練習場に入れば見慣れた笑顔があって、最初は非日常的と感じ、少なからず不安を抱いていた生活の中でさえも、いつもと同じ「歌う喜び」を見出すことに、そう時間はかかりませんでした。
 今は会って間もない、国籍も信じるものも違う、出会いにもし意味を付けるなら、ただ音楽が好きと言う一点だけに頼るしかない仲間なのだけれども、お互いに声を聴き合え、影響を及ぼし合える空間に確かに自分は居る。そして、隣にいる人がどんな言葉でどんな気持ちを抱いているか知らないけれども、きっと同じ瞬間に美しいと感じているのじゃないかと思ったとき、何とも言えない不思議な安堵感に包まれました。
 ならば言葉だっていろんな言語があっていい、表現だってそう。むしろその方法が異なることに心地好さを覚えるような感覚に捕らわれたのです。今まで味わったことのない、考えも及ばなかったようなことに思いを馳せる自分がそこに居ました。
 指揮者のトニュ・カリュステ氏はまさに一人一人に語りかけるようでした。時には大笑いするようなギャグも飛び出し、時間と空間を自由に操る魔術師のようでした。コンサートツアーのあちこちでお世話になったスタッフ、ホストファミリーの皆さんも人間味溢れる方々ばかりでした。人種を超え、国境を越え、でもそんな自分にとっては革命的な出来事にあっても、むしろいつもより強く人と人との繋がりを感じることができる。どんな断片を思い出しても人の温もりをもって思い出すことのできる、忘れられない2002年夏でした。


感動的な最後のステージ

塚田郁子

 今年のWorld Youth Choirは、シカゴのイリノイ大学でリハーサルを行った後、シカゴ、カラマズ、マディソン、ミネアポリスで合計8回のコンサートを行いました。 昨年のリハーサルでは、パート練習等はなかったのですが、今年はTallisの40声は合唱セクション毎に、Sidelnikovはパート毎に練習があったため、リハーサルの前半ではあまり全体で歌うことがありませんでした。
8回のコンサートのうち6回は教会で行われ、16声や40声の曲は、それぞれの教会によっていろいろな立ち位置で歌うことが試されました。それらのコンサートの中でも特に印象に残っているのは、第6回世界合唱シンポジウムへの出演を兼ねた最後のコンサートです。この日はリハーサルの時から、今まで以上に緊張感があり、ピリピリとした空気が漂っていました。このコンサートに対しては、「このメンバーで歌える最後のコンサートだから何としても良い演奏をしたい。」という格別の思いをみんな持っていたからだと思います。そんなみんなの思いが集まった結果、セントポール大聖堂というとても大きな教会で、満員の観客を前に、今回のツアーの中で最高の演奏をすることができました。私自身歌っていてとても楽しかったし、自分がこのステージに立って歌えたことを本当に幸せに思います。歌い終えた時には、感動の余り涙があふれてきました。また、このコンサートで第2ステージの始めに国ごとに入場した際、私達日本のメンバーが入場すると、たくさんの日本の方々が立ち上がって歓声を送って下さったのも嬉しかったです。私にとって、一生忘れることのできない夜となりました。
私が2回参加して感じたことは、World Youth Choirと名がついているものの、実際には約30ヵ国からのメンバーで構成されており、参加国に偏りがあるということです。メンバーの2/3以上がヨーロッパからの参加で、今回アジアからの参加は、日本、台湾、マレーシアの3カ国のみでした。また今回は、アメリカで開催されたため、アメリカと国交のない国からは参加できなかったと思われます。日本からも勿論のこと、世界中のあらゆる国からもっとたくさんの人がこのWorld Youth Choirに挑戦し、参加できることを私は願っています。


自然体で貪欲な個人主義者たち

西村英将

 WYCのメンバーと出会った時、正直私は嬉しかった。彼らは心底歌が好きなのだ。だから、彼らは歌いたい時にどこでも歌う。一人がそのメロディーを口ずさんだのなら、それに続けて即興でハーモニーを作る。おそらく、彼らとの生活の場で、歌が途切れたことはなかっただろう。また彼らは、一人一人が優秀なソリストでもありながら、しっかりとしたアンサンブルをつくりだす。しかもその形に無理がない。彼らは本当に自由に声を出す。だから、発声に無理がなく、常に自分のベストの声を出すことができる。一見、皆思い思いに声を出しているようにも見受けられるかもしれない。例えば発声練習もほとんど個人で済ませるし、歌うフォームもばらばらで、中には足を組んで歌っている者もいるし、練習中に席を外したり、(指揮者の指導中に)飲み食いする者さえしたりもする。我々日本人には、おおよそ理解できない状態であろう。そして、こう思うはずだ。そんな状態では練習にならないだろうと。しかし、いざ練習で合わせてみると、彼らはしっかりとしたハーモニーを合わせてくる。
 彼らは個人主義の名のもとで、常に自由に行動し、自由に歌い、自由に恋愛(!)する。それは一見、奔放に見えるかもしれない。しかし、だからこそ彼らは上手くやっていけるのである。彼らは常に自然体であるから、余計なストレスは溜め込まない。だから、大抵のトラブルなどは皆笑って済ませられる。多少のミスなど、音楽を形作る上では些細なものでしかないのだ(勿論、ミスは無いにこした事はないのだが)。常に自然体で歌える、そのことが、私がここで得た最も重要なもののひとつであろう。彼らは一人一人が優秀なソリストであり、また優れたエンターテイナーでもある。常に聴衆に自分たちの歌声をどう聴かせるか常に考えている。そのため、良い意見はどんどん取り入れ、そして行動に起こす。彼らは常に新しい意見に対して貪欲でもあった。我々一人一人の個性的な響きの個性を押さえ込まず、逆に相乗効果で素晴らしい形に仕上げられるのは、我々団員の力だけでは当然ありえない。優秀な指揮者があってこそ。
2週間の練習の後、録音を含めた本番の連続というのは、確かにハードな日程であった。とりわけ、後半は毎日が本番であったため、なかなか気の休まる暇も無かったが、一回の本番というものは数回の練習以上に得るものも多い。我々は本番を重ねるごとに、着実に力をつけていった。ミネアポリスでの演奏は、そのような中から生れた。


今年のWYCの印象

田中樹里 
聴き手:神野峯一(朝日新聞社メセナ・スポーツ部企画委員

── 指揮者のトヌ・カリュステ氏はどのようなことを重点に指導をしたのでしょうか。

 彼の指揮はとても分かりやすく、言葉では多く語りませんが、その表情やボディーランゲージは、私達をパッと音楽に集中させる力を持っています。彼はわれわれの良さを自然に引き出し、いつの間にかその音楽に惹きこまれている、そんな印象の指揮者でした。基本的にコミュニケーションは英語で行いますが、音楽を通じてのものが大きかったと思います。


── 日本で歌っている時との違いは?

 この合唱団は世界中から集まった若者で構成されているということと、ユネスコの親善大使という役割を担っている点です。全く知らない者同士が共に生活をしながら歌い、会話をする。世界各国の音楽をはじめとする文化や世界情勢を知り、考える良い機会です。

── セントポール大聖堂でのコンサートは素晴らしかったですね。

 ツアー最後のコンサートでWYC全員の気持ちが一つになり、共に歌う事の喜びを感じていただけたのだと思います。会場は天井がドーム型になっている大きな教会で、響きがとても豊かに感じられました。WYCは毎回世界各地の教会で歌いますが、それぞれ教会によってサウンドが違うので、とても興味深いです。また、ミネアポリスであんなに多くの日本の方が私たちのコンサートに来て下さったということに驚きました。歌っている我々メンバーにとって、そのことが、とても嬉しく感謝の気持ちでいっぱいです。

── あなた自身はどの曲が一番良かったでしょうか。

 個人的に好きなのはマーラーの2曲と「Geographical Fugue」です。「Geographical Fugue」は、歌詞には横浜、長崎を含む世界各地の地名が使用されています。また振りつきでしたので、やっている方としてはとてもおもしろかったのですが、セントポールの音響が良すぎて、この作品の核であるリズムと言葉が明瞭に伝わらなかったことが残念でなりません。

── 歌詞の言葉も英語以外のものがあり、不自由はありませんでしたか。あったとすればどう克服したのでしょうか。

 今回は英語のほか、ラテン語、ドイツ語、ロシア語などの歌詞がありました。この合唱団は世界中から集まったメンバーによるものであり、指導者も多いのでスペシャリストが揃っています。詩については英訳されたものがいくつか配られましたし、発音もネイティブのメンバーが中心になってみんなで勉強しました。


For this session, the World Youth Choir has its rehearsal camp in Chicago, USA. The singers
had 8 concerts in the USA including a first appearance in the frame of the 6th World
Symposium on Choral Music organized in Minneapolis. They were also the choir in residence
for two of the Symposium's workshops.
This World Youth Choir session was organized by the International Center for Choral Music
with the collaboration of Michael Anderson (University of Illinois, Chicago).

Conductor : Tonu Kaljuste, Estonia
Rehearsal camp place : University of Illinois in Chicago, USA
Dates : From July 19th to August 11th, 2002
Concert tour:
In Chicago
- 31 July : Preston Bradley Hall, Chicago Cultural Center
- 1 August : Petrillo Music Shell, Grant Park
- 2 August : St. Michael's Church
- 3 August : Holy Family Church
In Kalamazoo, Michigan :
- 4 August : First Presbyterian Church
In Madison, Wisconsin :
- 6 August : Luther Memorial Church
In Minneapolis/St. Paul, Minnesota :
- Cathedral of St. Paul (public concert)
- Cathedral of St. Paul (concert for the Symposium's delegates)
Programme:
Spem in alium nunquam habui (A motet in 40 parts) by Thomas Tallis
Die Zwei Blauen Augen (From the song setting Eines Farhenden Gesellen Wunderhorn), arranged by Clytus Gottwald by Gustav Mahler
Ich Bin Der Welt Abhanden Gekommen (Fur 16 Stimmen bearbeitet von Clytus Gottwald) by Gustav Mahler
Miserere (Sixteen-Part Chorus of Mixed Voices a Cappella Op. 14) <Which Was The Song Of > St. Luke 3, 23-38 by Arvo Part
Four Parts from "Cordial Talks" by Nikolai Sidelnikov
Cantata to folk texts
- Khodil, gulyal Vanyushka
- Uzh vy gory moi
- Shla eskadra
Geographical Fugue by Ernst Toch
Three Parts From "Ingerian Evenings" by Veljo Tormis
- A Roundelay
- Rontuska V
- Ending and Going Home


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