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World Youth Choir 2007 in South Africa
世界青少年合唱団2007
2007年7月9日〜8月4日



アフリカの大地で踊り歌う

林 史哉(京都府)

 飛行機がアフリカ大陸の上空に差し掛かると、眼下には日本とはまったく違う、ごつごつした地形が広がっていました。日本を離れた時から感じ始めていた気持ちの高まりは、シンガポールでアジアからのメンバーと合流していたこともあり、すでに興奮ともいえるものに変わっています。南アフリカ共和国・ナミビアの2か国でどんな1か月が過ごせるのか、期待と不安が入り混じる中で、ほとんど眠れないまま朝の到着を迎えたのです。

 WYCのメンバーたちは、ワインセラーで、鍾乳洞で、レストランで、学校で、誰からともなく歌い、踊りだしました。皆、よその国の歌や文化にも興味・知識を持ち、各国の歌を披露しあってもすぐ覚えてしまいます。初日にいっしょに飲みに行くとさっそくメロディーが紡ぎだされ、数人でハーモニーを奏でては、笑いあいました。実は、そんなところでもついていくのに必死でした。でも、英語も思うように操れない自分が、ことばだけではこんなコミュニケーションをすることができなかったのは間違いないでしょう。本当に幸せな時間でした。
 それぞれが政治状況、生活水準の違う国から来ているために、時に価値観の違いが露呈することもありました。しかしいっしょにいる期間は短くとも、真剣に話すことのできる仲間たちなのです。一方で、昼間に空き時間ができると、必ずフリスビーが始まります。加わった時も、見ている時も、つい笑顔がこぼれてしまう仲間たち。セッション最終日もいつもと変わらず太陽の下フリスビーで遊ぶのを見ていると、翌日には離れ離れになってしまうなんて信じられませんでした。

 また、出会ったほかのアフリカの人々もみな歌が、踊りが好きでした。あるレストランでは給仕をしてくれた女性たちがWYCの歌のお礼にと歌ってくれたし、新しい町に行くたびに学校で、大学で、歌と踊りで歓迎してもらったのです。われわれが必死で練習した踊りが、人々の体に染みついているものなのだと実感できました。南アフリカ共和国で参加することができた旧黒人居住区での礼拝の中でも、何千人もの人が踊り、皆が喜びを感じている姿を目の当たりにしました。
 ナミビアでのある晩には、ホストファミリーの参加するオペラの合唱隊の練習を見せてもらった後、パーティをしているからとある家に連れていってもらいました。そこには見慣れたメンバーの笑顔があり、前日練習にお邪魔した地元の合唱団の方もいて、うれしかったこと…! 夜遅くまで歌って踊って話をして、素晴らしい夜になりました。

 そんな生活をしながら、指揮者も歌い手も真剣に音楽と向き合い、コンサートはかつて自分の感じたことのない強いエネルギーに満ちていました。さらに、第2部でメンバーが踊りだすと、聴衆もいっしょになって高まっていくのです。あの時間のことは、けっして忘れることはないでしょう。素晴らしい出会い、すてきな1か月でした。


共に歌い合えることの素晴らしさをわかちあう喜び

浦田千尋(佐賀県)

 WYC(世界青少年合唱団)の一員として過ごした約1か月の南アフリカ共和国での日々は、私にとってかけがえのないものとなりました。そしてこの日々は、私自身のこれからの合唱への関わり方に深く関係すると思います。
 セッションが始まったころは、75名のメンバーの顔と名前を覚えるのと、慣れない英語にどぎまぎしていました。
 WYCのメンバーはソリストのように歌がうまい。そして歌や踊りが大好きで、いつも誰かが歌えば皆が合わせて歌い、大合唱になっていました。会話が不安だった私にとって歌ったり踊ったりする時が一番彼らと心が通い合える気がしました。
 WYCで生まれるサウンドはとても魅力的でした。無理な力は要らず、一人ひとりの声が溶け合って、時に熱く、時に繊細な音色がします。何よりも中で歌っていてとても心地よかったです。
 コンサートは合計11回あり、そのほとんどが教会で行なわれました。天井が高く、石造りの壁、巨大なステンドグラス、どこも立派なものでした。
 ツアーでいろいろな町を回るなかで、さまざまな南アフリカの国の現状が見えた気がします。道路の真ん中で新聞を売る黒人の少年、町で働いているのはすべて黒人、コンサートに来た観客も黒人と白人の座る席がきっちりと分かれていました。日本の中からはけっして見ることができなかった、気づくことができなかった現実がありました。そしてそのアパルトヘイト問題には、とても簡単に解決できない複雑さがあることがこの土地へ来てわかりました。
 そんな中、黒人の町ソエット(soweto)の教会のミサに参加し、演奏する機会がありました。黒人のマリア様が飾られてあるその教会に、数百もの人が賛美歌を歌い踊る。彼らの歌や祈る姿を見ていて、この人々の深い信仰心から合唱が生まれていったのだと思うととても感動しました。

 私たちは合唱を通して人々に平和を発信します。合唱をする行為そのものが平和の象徴、そして平和への祈りであることを改めて実感しました。
 メンバーは音楽を専門に勉強している人だけでなく、ドクターやIT関係、また幼稚園で働く人…とさまざまです。彼らとは合唱をしていなければ出会うことはなかったでしょう。彼らとの別れは本当に悲しかったけれど、あのアフリカの広大な大地で、共に歌い合えることの素晴らしさを分かち合えたことは何よりの喜びです。この感動のいっぱい詰まった夢の1か月の経験を大事にしていきたいと思います。
 何かと私を助けてくれた日本人テナー3人の方、また今回セッションに行くにあたり、応援してくださったすべての皆さまに感謝します。ありがとうございます。


 WYC2007は南アフリカ共和国で2007年7月9日〜8月4日に開催。コンサートツアーは南アフリカとナミビア。指揮:Peter Dijkstra(オランダ)、Sidumo Nyamezele(南アフリカ)


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