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World Youth Choir 2008 in China
世界青少年合唱団2008
2008年7月14日〜8月11日



One World, One Voice

                      上田絢香(大分県)

 いつでもどんなところでも、暇さえあればすぐに歌が始まり誰かがハモりだす。練習の合間には誰かがピアノを弾き始め、それに合わせて歌い出す人や踊り出す人もいる。みんなが自由に音楽を楽しんでいる。わたしのWYCはそんな生きた音楽で満ちあふれていました。
 練習が始まって3日目に初めての本番がありました。そのステージはまったく緊張することなく、ただ安心感とワクワク感とうれしさでいっぱいでした。会場いっぱいに広がったハーモニーはわたしが今まで体験したことのないものでした。どこからこんなすてきな音が生まれてくるのか、どうしてこんなにも幸せで心地よい音がするのかわかりません。でも世界中から集まってきた仲間たちの歌声は、ひとつに溶け合い、そして自分がその歌い手の一人であるということが本当にうれしかった。本番が終わった瞬間に立ち上がって拍手をしてくださる会場の人。それを見て、わたしは涙が止まりませんでした。
 ステージから降りて泣いている私を見て、指揮者のスティーヴ・ジグリー(Steve Zgree)氏が思いっきり抱きしめてくれました。そして「どうして泣いてるの? うれしいから? 悲しいから?」と尋ねてきました。わたしは「とてもうれしいんです」という一言しか言うことができませんでした。けれどその後、メンバーが駆け寄ってきてくれたことが、本当にうれしかったです。これからこのメンバーと一緒に毎日音楽ができると考えるだけで、とても幸せでした。

 しかしある出来事をきっかけに、ただこうして幸せを感じているだけではいけないということに気づきました。ある日の夜遅く、メンバーの一人が楽譜と向き合っているのを見かけました。その楽譜にはとてもたくさんの勉強した跡がありました。その姿を見て、わたしももっと積極的に音楽と向き合っていきたいと思いました。それまではただハーモニーに包まれ、その中で歌っていることに満足していたのです。
 WYCに行く前までは、その場所で歌うことがわたしの1つの夢であり目標でした。そこで出会った仲間たちとともに過ごした約1か月間は本当にすばらしいものでした。それは参加している全員が音楽を本当に愛していて、お互いの音楽を認め合っていたからだと思います。
 日本に帰ってきて、今、わたしはもっと世界を見てみたい、さまざまな国の人たちともっとたくさんの音楽をしてみたい、と思います。これから先、日本だけでなく世界中の多くの人と出会い、たくさんの感動を共有していきたい、そして少しでも多くの人に合唱音楽のすばらしさを伝えていきたいと。


音楽との出会い、仲間との出会い

                      間谷 勇(東京都)

 オリンピックまっただ中の中国で行なわれたWYC2008サマーセッション。香港・広州・マカオで1か月間のコンサートツアーを行なった。指揮者は韓国のユーン(Hak Wan Yoon)氏とアメリカのジグリー氏。一方はアジア各国の伝統音楽を素材とした合唱曲、もう一方はトリオを交えてのジャズヴォーカルアンサンブルと、対照的なプログラムとなっていた。メンバーは音楽を勉強する学生や、仕事をしながら合唱団で歌っている社会人等、さまざまだった。

 WYCの素晴らしい点は2つあると思う。まず1点は世界各国で活躍している指揮者と長期間集中して音楽的時間を共有できること。そして2点目は世界各国の合唱文化の新世代に位置しているメンバーたちと、音楽のこと、合唱のこと、さらには歴史や政治、将来の夢まで、多くを語り合えることだ。シンポジウムや国際コンクール等、これまでも国際的な合唱活動の機会に恵まれてきたが、違う国の音楽家と深い人間関係を築くことはそう簡単ではない。WYCという同じ屋根の下で、家族のように、ときには恋人のように朝から晩まで生活を共にし、音楽を共有することで、人間としても音楽家としてもお互いを認め合うことができるからこそ、このような友人関係を築けるのだと思う。
 1か月の間に、多くのメンバーと各国の合唱文化の現状、それについてその国の若者がどのような問題意識を持ち、どうしていかなければいけないと思っているのか、本音で語り合うことができた。今まで遠くの世界のこととして、単なる知識として認識していたことが、とても近く、血の通った情報として感じられるようになった。世界中の合唱文化がここに集まり、それぞれが刺激を受け新たな発想を自分の国に持ち帰る。WYCは世界の合唱文化の交流点とも言えるだろう。

 そして、各国の合唱文化を知ることは、新たな視野の獲得であると同時に、日本人としてのアイデンティティーを意識する機会でもあった。この数十年、日本は他文化である合唱音楽の技術と伝統を急速に取り入れてきた。しかしこの短い歴史の中でも、日本人が文化を育む以上、意図しなくともそこには日本独自の合唱文化がつくられ、私たちは今その上に立っている。言葉も文化も違うメンバーたちとの出会いが、自分の存在とその背景にあるものを改めて認識するきっかけとなった。
 素晴らしい音楽と愛すべき仲間との出会い。WYCでの夢のような1か月は、私の人生にとってかけがえのない時間だった。この出会いに感謝し、日本の合唱の次の時代を担っていく世代の一人として、今後もしっかりと歩いていきたいと思う。


素晴らしい人々との出会い

                      高松令美(東京都)

 今回WYCに初参加しました。何気なく興味本位で応募したWYCが、こんなに感動的で、刺激的で自分に影響を与えてくれるものとは思っていませんでした。
 まず、世界中の才能ある若者たちに出会えたことです。彼らはそれぞれ自分の国で、合唱を学ぶ学生だったり、歌を教える先生だったり、合唱団の指揮者だったりとさまざまでした。彼らは英語が苦手な私にゆっくり何度も繰り返し話してくれたり、冗談を言って笑わせてくれたりするようなユニークで親切な人たちばかりで、会ってすぐに皆のことが好きになれました。彼らはもちろん歌がうまく、すてきな声の持ち主でした。クラシックを学んできた人、ジャズを学んできた人などがいましたが、それぞれ本当に個性的で「自分の歌」を持っていました。けれど当然ながら「アンサンブル」をするときは、純粋に「きれい!」と思えるようなハーモニーが現れます。私は練習初日の初合わせのときからすでに感動し、うれしさでいっぱいでした。そんな彼らと“World Youth Choir”として数々の舞台に立てたことが本当にうれしかったです。どれも今まで経験したことのない観客の拍手や歓声でした。1回1回の本番で合唱することの喜びを感じ、心から楽しむことができました。
 そして今回のセッションで2人の素晴らしい指揮者に出会うことができました。韓国のハク・ウォン・ユーン氏は少ない言葉でポイントをつく無駄のない指導で、注意もよくわかり、納得できる指導でした。アメリカのスティーヴ・ジグリー氏は本番のステージの運び方が素晴らしい人でした。彼の指揮は自然と笑顔になってしまい、そして観客を楽しませる、まさにエンターテイナーだと感じました。私にとって衝撃的でした。
 素晴らしい指揮者とメンバーたち。このWYCに参加していなかったら一生出会うことのできない人たちでした。このセッションのスタッフや、私たちのお世話をしてくれた香港ボランティアの方たちにも。国や文化、環境もまったく違う世界中の若者が、歌、合唱を愛するという共通の思いでつながり、ともに1か月過ごし合唱するというWYCのプロジェクトに参加できたことを本当に幸せに思います。これは私の人生において、言葉では言い表せないような貴重な財産となりました。私のつたない文章では表現しきれませんが、本当に感動的な1か月を過ごすことができました。今は私のまわりのすべての人に感謝の気持ちでいっぱいです。


 WYC2008は中国で2008年7月14日〜8月11日に開催。香港、広州、上海、マカオで公演した。指揮:Steve Zegree(アメリカ), Hak Wan Yoon(韓国)


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